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本ブログは、医療空間における権力構造や、そこに生じる心理的な嫌悪感・ざわつき等を分析・考察するものです。特定の医療機関や従事者を非難・攻撃するつもりはありませんが、記事の性質上、医療現場の生々しい実態や直接的な表現が含まれる場合があります。ご自身の心身の状況に合わせて、無理のない範囲で閲覧をご判断ください。詳しくはサイトポリシーをご一読ください。
こんにちは、御簾納です。
Sさんが身を呈して突きつけた現実と、妻が語った「チクワの穴とエロティシズム」の残酷な真理。それらを前にして、私は一度完全に筆を折ろうとしていました。
「男の暴力的なまなざしが浄化されていない社会において、安易に空間をオープンにすることは、女性たちを視線の暴力へ放り出す公開処刑に他ならない。あの分厚いカーテンは、女性たちが自らの精神を破壊されないためにすがりつくしかない、悲痛な『防空壕』だったのだ」
私はそう結論づけ、「ならば男である私は、自分たちが背負う消えないエロティシズムの加害性という罪から目を背けず、十字架を背負って生きていくしかない」と、この思索の連載を美しく締めくくろうとしていたのです。
しかし、Sさんから突きつけられた絶望的な「暫定結論」を前に一度は筆を折ろうとしたものの、過去の自分のノート(【No.019】や【No.039】)を何度も読み返しているうちに、どうしても拭いきれない『決定的な矛盾』に気がつきました。
そうです。欧米の婦人科には、お腹を隔てる分厚いカーテンも、脚を強制的に開かせる全自動内診台も存在しないではないですか。
諸外国でも当然、男性医師によるエロティックな視線の非対称性は存在するはずです。彼らの婦人科が優れているという話ではありません。あちらにはあちらの地獄があるでしょう。しかし少なくとも、あの空間には、患者の顔と下半身を物理的に切断する壁がない。
この事実と、Sさんの言葉を掛け合わせた時、私の中で一つの強烈な仮説が立ち上がりました。
Sさんが突きつけた「男のエロい視線がある限り、オープンにするなんて絶対不可能」という言葉は、人類普遍の生物学的な真理を指していたのでありません。
それは、『現在の日本社会という、女性の身体へのリテラシーが著しく歪んだ特殊な環境下において、女性たちが肌で感じている逃げ場のないリアル』だったのです。
だとするならば、「男がエロいから隠すしかない」「防空壕にこもるしかない」という私の暫定結論は、根本的に間違っています。
日本特有のガラパゴス化されたこの密室空間は、単なる「オスとメスの生物学的な本能」などという逃げ口上で片付けられるものではありません。そこには、もっと根深い「日本の医療システムと権力構造の歪み」、あるいは「社会に蔓延る病的なジェンダー観」が複雑に絡み合っているはずなのです。
ここで私は、ようやくSさんの「真意」に気がつきました。
Sさんは、私に「男はどうしようもない生き物だから、空間を変えるなんて諦めろ」と言いたくて、あの密室の待合室に私を招き入れたわけではありません。自分の知性や言葉をもってしても言語化しきれないこの空間の巨大な歪みを、「綺麗なシステム批判に逃げ込まず、あなたの『空間社会学』のメスで、もっと血まみれになって解剖し続けろ」と託したのです。
「男の業が深いから仕方ない」と現状を追認し、思考停止することは、彼女の覚悟に対する最大の裏切りに他なりません。
カーテンという物理的遮断(防空壕)が今なお必須であるというこの絶望的な条件の中で、それでもなお、女性が「モノ」として扱われる虚無感を、空間の力でどう解体していくのか。
私の空間社会学は、敗北したのではありません。
この息苦しい防空壕の底で、ようやく「真のスタートライン」に立ったのです。
とはいえ、日本の内診台とカーテンの本当の病理を解き明かし、空間のオルタナティブ(代替案)を提示する果てしない研究の旅は、ここからが本番です。早急に結論を出すことは、今の私にはできません。
したがって、怒涛のように続いたこの連続した思索の旅は、一旦ここで区切りとさせていただきます。
Sさんとの対話やこれまでのフィールドワークを通じて、私の手元のノートには、まだブログ記事という形にできていない無数のメモが残されています。本丸である内診台の議論からは外れるものの、決して目を背けてはならない「空間と身体にまつわる病理の断片」が、まだいくつも転がっているのです。
本丸の探求を水面下で継続しつつ、まずは頭を整理するために、ブログの更新はしばらくお休みをいただこうと思います。しかし、いずれまたこれらの「こぼれ落ちた空間の病理」を一つずつ解剖するために、必ずここに戻ってくるつもりです。
私たちの社会が隠し続けてきた深淵は、想像以上に深く、そして暗いものです。
しかし、私はもうそこから目を逸らすことはしません。
またいつか、新たな空間の扉の前で皆さんとお会いできる日を楽しみにしています。


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