【No.094】トリビアの部屋② —— 待合室の「椅子の沈み込み」が語る、空間設計の秘密

空間と装置

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本ブログは、医療空間における権力構造や、そこに生じる心理的な嫌悪感・ざわつき等を分析・考察するものです。特定の医療機関や従事者を非難・攻撃するつもりはありませんが、記事の性質上、医療現場の生々しい実態や直接的な表現が含まれる場合があります。ご自身の心身の状況に合わせて、無理のない範囲で閲覧をご判断ください。詳しくはサイトポリシーをご一読ください。

こんにちは、御簾納です。

ドラマ版『戦慄の絆』の生々しい権力構造について、またしても前のめりに熱く語りすぎてしまいましたね。今回はいったん冷静になりまして、「トリビアの部屋」の第2回をお届けします。

今回のテーマは、クリニックの第一印象を決める「待合室の椅子」についてです。

以前のブログで、婦人科の待合室はパステルカラーやアロマの香りで「癒やし」を過剰に演出し、奥にある内診台の暴力性を隠蔽している……といった少し意地悪な空間考察をしました。

しかし、空間設計の視点で見ると、彼らもただ闇雲にホテルライクな空間を作っているわけではありません。実は、産科(妊婦さんが通う)と、婦人科(妊娠以外の女性特有の悩みを診る)では、「椅子の硬さと高さ」という非常に物理的でシビアな違いが隠されているのです。

皆さんは、ホテルのラウンジにあるような、深く沈み込むフカフカのソファに座った状態から立ち上がる時、無意識に「腹筋」を使っているのをご存知でしょうか。

お腹に大きなスイカを抱えた臨月(出産間近)の妊婦さんにとって、この「深く沈み込む柔らかいソファ」は、癒やしどころか「一度座ったら自力で立ち上がれなくなる、恐怖のトラップ(罠)」と化します。腹筋に力を入れることが難しく、重心が極端に前に移動しているため、深く沈み込んだお尻を持ち上げるのは至難の業なのです。

そのため、妊婦さんが多く訪れる「産科」の待合室の椅子は、「座面が硬い(沈み込まない)」「座面が少し高い」「頑丈なひじ掛けがある」という条件を満たすように設計・選定されるのがセオリーとなっています。

一見すると高級感のあるフカフカのソファの方が患者さんへの「おもてなし」のように思えますが、産科においては「硬くて高い椅子」こそが、最も身体構造に寄り添った究極のバリアフリー設計なのです。

逆に、妊娠を対象としない純粋な「婦人科」や美容系のクリニックでは、これから始まる内診への心理的緊張を解きほぐすことを最優先とするため、あえて深く沈み込んでリラックスできるローソファを配置しているケースも少なくありません。

つまり、初めて訪れた「産婦人科」の待合室で椅子に座ってみれば、そのクリニックが「産科メインの空間なのか、それとも婦人科メインの空間なのか」という、病院側の隠されたメインターゲットが、お尻の感触から一発で分かってしまうというわけです。空間のメッセージは、家具のスペックに一番雄弁に現れるんですね。

ちなみに、このウンチクをまたしてもドヤ顔でSさんに披露したところ、彼女はコーヒーをすすりながらこう言い放ちました。

「妊婦の立ち上がりやすさも当然あるだろうけど、一番の理由は『清掃のしやすさ』よ。産科の待合室では、突然破水したり出血したりするリスクが常にあるでしょ。布張りのフカフカのソファなんか置いたら一発でダメになるわ。だから、アルコールでガシガシ拭ける硬いビニールレザー製のベンチシート一択なの。空間社会学もいいけど、現場の感染症対策と清掃ナメちゃダメよ」

……今回も、見事に粉砕されました。医療空間の真実は常に「衛生と処理」という身も蓋もない現実の上に成り立っているようです。

それではまた、次のふとした違和感の前で、お会いしましょう。

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