【No.083】密室のバグと網タイツ —— ガーターベルトが破壊した「医療空間の前提」

社会とジェンダー

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本ブログは、医療空間における権力構造や、そこに生じる心理的な嫌悪感・ざわつき等を分析・考察するものです。特定の医療機関や従事者を非難・攻撃するつもりはありませんが、記事の性質上、医療現場の生々しい実態や直接的な表現が含まれる場合があります。ご自身の心身の状況に合わせて、無理のない範囲で閲覧をご判断ください。詳しくはサイトポリシーをご一読ください。

こんにちは、御簾納です。

ネットの掲示板や、知り合いの医療関係者から漏れ聞こえてくる「現場のリアルな声」を集めていると、時折、空間社会学の定説を完全にバグらせるような斜め上のエピソードに出くわすことがあります。今回はそんなお話です。

これは、ある若い男性研修医が産婦人科の現場で出くわしたという、少々刺激的なエピソード。

その日、内診室にやってきた女性患者。彼女がいざ診察台に上がるために準備をしたその下半身は、なんと「網タイツにガーターベルト」という、あまりにも戦闘力の高い(?)フル装備だったというのです。

その若い研修医は、医療者としての建前を思わず忘れ、極めて素直な感想を残しています。

「婦人科って、こういう人も来るのか」と度肝を抜かれ、そして「正直、エロすぎた」と。

思わずフフッと笑ってしまいそうになるエピソードですが、空間の力学をネチネチと考えてしまう私としては、この「網タイツ+ガーターベルトの女性」の心理と、それが無機質な医療空間に与えた破壊力について、少しばかり考察せずにはいられません。

考えられる理由は、大きく二つあります。

一つは、極めてストイックな「究極の合理性」という仮説です。

ランジェリーの構造に詳しい方ならお分かりかもしれませんが、ガーターベルトというのは、ショーツ(下着)を一番上に履くようにすれば、ガーターとストッキングを着けたまま、ショーツだけをスルリと脱ぐことができます。あるいは、もともと股の部分が開いているオープンクロッチタイプの網タイツだったのかもしれません。

もしそうだとしたら、彼女は「脱衣カゴから内診台まで下半身すっぽんぽんで歩くのが恥ずかしい」「でも脱ぎ着の手間も省きたい」というジレンマを、この特殊な下着によって一発で解決したことになります。機能性重視で選んだのだとすれば、彼女は天才的な空間ハッカーです。

もっとも、脚には網、腰にはガーターベルト、肝心のところだけ何もない、という姿で脱衣カゴから内診台までの数歩を歩くのは、すっぽんぽんで歩くよりもかえって刺激が強い気がしますので、恥ずかしさの方が本当に解決していたのかどうかは、少々怪しいところです。

そう考えると、もう一つの仮説、すなわち「医療空間に対するテロリズム(挑発)」という見方の方が、男としては圧倒的にざわつきます。

これまでの連載で、医療空間は「エロティシズムを強制的に漂白し、女性をただの無機質な患者(モノ)として扱う場所である」と散々語ってきました。

もしかすると彼女のその過剰にセクシュアルな武装は、自分を「ただの肉のパーツ」として処理しようとする無機質な空間に対する、強烈なアンチテーゼだったのではないでしょうか。「私はただ処理されるだけの生肉じゃない。女よ」という自己主張です。

そして事実、そのテロは見事に成功しています。若い研修医は「エロすぎた」と、男としての本能を直撃され、完全にノックアウトされてしまっているのですから。

以前【No.049】で、あの部屋は医師に「見ろ、しかし見たと思うな」という無理な要求をしている、と書きました。ふだんは誰もそれを口にしないことで、かろうじて守られていることになっている要求です。彼女のガーターベルトは、それをあっけなく反故にして、診察室をただの「エロティシズムが支配する密室」へとバグらせてしまいました。なにしろ研修医は、見たと思ってしまったどころか、それを掲示板にまで書き込んでいるわけですからね。

それが彼女の普段着だったのか、それとも無機質な空間に一矢報いるための「内診下着」だったのか。真相は彼女にしか分かりません。

しかし、ただの布切れの組み合わせ一つで、男の理性をいとも簡単に揺さぶり、鉄壁であるはずの医療空間のルールをひっくり返してしまうわけですから、重苦しい空間論を延々と語ってきた身としては、少し痛快な気分にすらなります。

(ちなみに、その研修医がその後、ガーターベルトを見るたびに内診室を思い出すようになったのか、それとも内診室に入るたびにガーターベルトを思い出すようになったのかは、書き込みからは分かりませんでした。)

それではまた、次のふとした違和感の前で、お会いしましょう。

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