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本ブログは、医療空間における権力構造や、そこに生じる心理的な嫌悪感・ざわつき等を分析・考察するものです。特定の医療機関や従事者を非難・攻撃するつもりはありませんが、記事の性質上、医療現場の生々しい実態や直接的な表現が含まれる場合があります。ご自身の心身の状況に合わせて、無理のない範囲で閲覧をご判断ください。詳しくはサイトポリシーをご一読ください。
こんにちは、御簾納です。
今回は、ふと見返した映画のワンシーンから。2007年のアメリカのホラー・コメディ映画『Teeth(邦題:女性鬼)』のお話です。
普段このブログで映画を取り上げる際は、日本題をメインにして原題を括弧書きにしているのですが、今回ばかりは逆にさせてください。というのも、日本では『女性鬼』という、なんともB級感丸出しで作品のテーマを矮小化するような、ちょっと残念なタイトルに変えられてしまっているからです。ですので、ここからはあえて原題の『Teeth』と呼ばせていただきます。
ホラー映画ファンやB級映画好きの間ではカルト的な人気を誇る作品ですが、主演のジェス・ワイクスラーはこの役でサンダンス映画祭の審査員特別賞(演技部門)を受けていますし、監督のミッチェル・リヒテンシュタインは、アメコミのひとコマを拡大したような絵で知られるポップアートの巨匠、ロイ・リキテンスタインの息子さんです。B級と呼ぶには、少々育ちが良すぎる映画なのです。(ちなみに日本版のDVDでは監督の名前が「リヒテンシュタイン」と表記されていて、日本ではたいてい「リキテンスタイン」と書かれるお父さんと並べると、息子さんの方だけ国の名前のようになっています。)
設定は極めて強烈です。主人公の女子高生が、自らの女性器の奥に「鋭い歯(牙)」が生えていることに気づく、という物語。いわゆる神話や民俗学で語られる「ヴァギナ・デンタータ(歯の生えた女性器)」をモチーフにした作品です。
彼女に無理やり乱暴を働こうとしたり、尊厳を踏みにじろうとする男たちは、次々とその「牙」によって己のシンボルを食いちぎられ、凄惨な返り討ちに遭っていきます。
この映画の中で、私が空間社会学的な視点から最も注目したのが、中盤に用意されている「婦人科の内診シーン」です。
自分の身体の異変に悩んだ主人公は、婦人科を受診します。生まれて初めての婦人科です。ところが、そこにいた男性医師は、彼女が初めてだと知るや、それに付け込み、診察のふりをして彼女の身体に触れ始めるのです。
かつて私が散々書き連ねた「圧倒的な権力者としての男性医師」と「まな板の上の鯉として絶対服従を強いられる女性」という、非対称な密室の構図が、最悪の形でそこに再現されています。
そして、痛みに声を上げた彼女がパニックに陥った次の瞬間。
「ガクン!」という衝撃とともに、彼女の奥に潜む牙が、医師の右手の指を四本、無慈悲に食いちぎるのです。
男である私からすれば、全身の血の気が引くような身の毛もよだつ去勢の恐怖映像です。しかし、このブログで長々と「内診台という空間が女性に振るう暴力性」を解剖してきた今の私には、このシーンが単なるB級ホラーのゴア描写には到底思えません。
女性はあの空間であらゆる防衛手段を奪われ、ただ耐えることしか許されません。しかし、この映画は、その絶対的な権力構造を「物理的な牙」によって一撃でひっくり返してみせます。
最も無防備で、されるがままであるはずの器官そのものが、突然「自律的な暴力(牙)」を持ち、男の傲慢な侵入を物理的に切断する。それは、「あなたの好き勝手にはさせない」「私をただの穴として扱うな」という、医療空間における究極のリベンジ・ファンタジーに他ならないのです。
白衣を着て「診察です」と言いさえすれば何をしても許される、という思い上がりに対して、女性の身体が文字通り「牙を剥く」。
B級ホラーの皮を被りながら、実は男社会の抑圧に対する極めて痛烈な批評になっている。内診室の不条理にモヤモヤしたものを抱えている方は、怖いもの見たさで一度チェックしてみてはいかがでしょうか。(男性パートナーと一緒に観るのだけは、あまりお勧めしませんが……笑)
それではまた、次のふとした違和感の前で、お会いしましょう。


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