【閲覧に関するご案内】
本ブログは、医療空間における権力構造や、そこに生じる心理的な嫌悪感・ざわつき等を分析・考察するものです。特定の医療機関や従事者を非難・攻撃するつもりはありませんが、記事の性質上、医療現場の生々しい実態や直接的な表現が含まれる場合があります。ご自身の心身の状況に合わせて、無理のない範囲で閲覧をご判断ください。詳しくはサイトポリシーをご一読ください。
こんにちは、御簾納です。
婦人科の待合室で、患者をフルネームで大声で呼ぶことは、今では最大のタブーとされています。そのため番号札とモニターの組み合わせが一般的なのですが、近年、なかなかユニークな呼び出しシステムが導入され始めているようです。
フードコートの呼び出しベル、いわゆるゲストページャーです。
ショッピングモールでクレープやハンバーガーを注文したときに渡される、料理ができあがると赤く光ってけたたましく震える、あれですね。
初めて手渡された方は、なかなか面食らうそうです。えっ、私これからクレープでも焼き上がるの、と。
なるほど、シュールだなあと思いました。パステルカラーの静かな待合室で、これから内診を受ける女性たちが緊張しているところへ、手元の呼び出しベルが突然ブブブブブッと陽気に震え出すわけです。絶対に笑ってはいけない場所なのに、手元の道具がどう見てもファストフードのそれである。
……という話で終わらせるつもりだったのですが、書いているうちに、ひとつ気になることが出てきました。
あのベルは、本来どういう装置なのでしょうか。
フードコートでは、こういう使い方をします。注文をして、あれを受け取って、席で待つ。そして鳴ったら、カウンターへ取りに行く。つまりあれは、受け取りに来いという合図です。自分が注文した品物ができあがったので、引き取ってください、と。
では、婦人科ではどうか。
鳴ったら、内診台に上がりに行くわけです。
同じ装置なのに、こちらは受け取る側ではありません。引き渡される側です。ベルが震えたら、自分の身体を持って診察室へ出向いて、脚を開いて、明け渡す。
なんというか、向きが逆になっています。
もっとも、これは私の考えすぎでしょうね。導入した方はそこまで考えていないはずですし、実際、あの装置はよくできています。モニターを睨み続ける必要がなく、確実に順番を教えてくれて、名前も呼ばれない。プライバシー保護という点では、極めて合理的な解です。
ただ、もうひとつ思い出したことがあります。
以前、待合室に流れているオルゴール調のBGMについて書きました。あれは診察室から漏れてくる音を隠すために流されている、という話です。
つまりあの待合室では、音を消すための装置と、音を出すための装置が、同時に働いていることになります。片方は聞こえないように必死になり、もう片方は確実に聞こえるように震える。しかもどちらも、女性の名前を呼ばないためです。
名前を呼ばないという一点のために、ずいぶん手の込んだ仕掛けが用意されているわけですね。
名前を呼べば済む話ではないか、とは思いません。呼べないから、こうなっているのでしょう。ただ、フードコートの技術まで動員しなければならないほど、あの三文字か四文字は口に出しにくいのだな、とは思います。
クレープが焼き上がるのを知らせる技術が、今日も待合室で静かに震えています。
それでは、また気が向いた時に。


コメント