【No.048】ラテックスの手袋 と『触れているのに触れていない』断絶—— Sさんとの対話(3)

権力と医療倫理

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本ブログは、医療空間における権力構造や、そこに生じる心理的な嫌悪感・ざわつき等を分析・考察するものです。特定の医療機関や従事者を非難・攻撃するつもりはありませんが、記事の性質上、医療現場の生々しい実態や直接的な表現が含まれる場合があります。ご自身の心身の状況に合わせて、無理のない範囲で閲覧をご判断ください。詳しくはサイトポリシーをご一読ください。

こんにちは、御簾納です。

電動内診台による同意なき開脚、視覚の剥奪、クスコによる冷たい拡張。機械や金属による暴力性を語り終えた後、Sさんは、もう一つの壁について言及しました。

これまで私が扱ってきた壁は、どれも目に見えるものでした。カーテン、内診台、金属の器具。しかし彼女が挙げたのは、そこにあることを意識すらしない、ごく薄いものでした。

「器具を使わない触診のとき、先生がゴムの手袋をつけて中まで指を入れてくるじゃない? あれが一番、自分がただの『モノ』として扱われてるって実感して、すごくやり切れない気持ちになるんだよね」

手袋です。

診察に使われる手袋の厚みは、0.1ミリにも満たないそうです。

カーテンは布です。目に見えて、手で触れて、確かに「壁がある」と分かる。内診台は金属とプラスチックの塊で、部屋の真ん中に鎮座しています。それらに比べて、手袋はあまりにも薄い。つけている医師でさえ、その存在を意識してはいないでしょう。

その、0.1ミリにも満たない膜が、あの部屋で、カーテンと同じ仕事をしています。

——ここで、私の頭の中では、また例の思考が動き出しました。

指が挿入され、内部をまさぐる。行為そのものを文字に起こせば、それは。

いえ、やめておきます。

前回、私は同じことをやりました。彼女が「モノとして扱われる」と打ち明けた直後に、その身体を自分の思考の材料にして、あろうことか加害者の台詞まで一つ作った。二話でまた同じ轍を踏むようでは、さすがに学習能力がなさすぎます。

だから今回は、先に調べることにしました。なぜ、手袋をつけるのか。

答えは、拍子抜けするほど単純でした。感染対策です。

しかも、一方通行ではありません。医師を体液から守ると同時に、医師の手指に付いているもの——常在菌や、直前に触れた何か——を、患者の粘膜に持ち込まないためでもあります。婦人科に限った話ですらない。採血でも、口の中を診るときでも、同じようにつけます。標準予防策と呼ばれる、世界中の医療機関が共有している手順です。

つまり、あの手袋は、彼女を守るためにも、そこにあります。

私は正直、この事実の前で、少し困りました。

もしあの膜が、医師の側の都合だけのものだったなら、話は簡単でした。批判すればいい。しかし、そうではない。あれは、彼女自身を感染から守っている。外すべきだとは、口が裂けても言えません。

それでも彼女は、あれが一番やり切れないと言うのです。

そして、もう一つ厄介なことに気づきました。彼女が感じている「モノ扱いされている」という感触は、医学的に見て、間違っていないのです。

粘膜は、感染の経路です。だからこそ、素手で触れてはならない場所として扱われる。彼女が受け取っている「私は、直接触れてはいけないものとして扱われている」というメッセージは、被害妄想でも、繊細すぎる感受性でもありません。手順の通りに、正確に伝わっている。

気のせいであってくれれば、まだ救いがありました。しかし彼女は、正しく読み取っている。正しく読み取った結果として、傷ついている。

「触れているのに、触れていない」

私はこのブログで、カーテンについて延々と書いてきました。あれは「見ているのに、見ていない」ことにするための装置だと。医師は患者の顔を見ず、患者は自分の身体を見ない。視線を切断することで、その場を医療として成立させている、と。

手袋は、その触覚版です。0.1ミリにも満たない膜が、皮膚と皮膚の接触を切断し、まったく同じ動作を、別のカテゴリーへと移し替える。

境界というものは、これほど薄くても成立するのだと、私は思い知らされました。分厚いカーテンなど要らない。0.1ミリで足りる。逆に言えば——その0.1ミリを失ったとき、あの部屋で何が起きるのかを、医療の側は正確に知っているということでもあります。

ここまで書いて、私は、これまでの記事といささか勝手が違うことに気づいています。

これまで私が扱ってきたものには、批判の宛先がありました。カーテンには、それを掲げた側の欺瞞があった。自動開脚には、善意の暴走があった。メディアには、あの角度にカメラを置いた誰かがいた。

手袋には、それがありません。医師は手順通りにやっている。彼女の感じ方も正確です。誰も間違っていない。それでも、あの部屋には、確かにやり切れなさが発生している。

責める相手のいない加害、とでも呼ぶべきものが、あの0.1ミリの上に乗っていました。

【2026年7月26日追記】
タイトルに「ラテックスの手袋」と書きましたが、その後リサーチを進めるうち、現在はニトリル製が主流になっていることを知りました。理由はラテックスアレルギーです。

そして、その広がり方に、私は少し驚かされました。手袋が医療現場に爆発的に普及したのは、感染対策が徹底されていった時期です。つまり、守るために着けるものが増えた結果、ラテックスに触れ続ける人が増え、アレルギーを発症する人が増えた。しかも、その多くは、一日中着けている医療者の側でした。

守るための膜が、守る側を傷つけ、素材ごと入れ替えられた。あの0.1ミリは、以前にも一度、責める相手のいない加害を起こしていたことになります。

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